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槍ヶ岳・天狗原 やりがたけ 3179.7m てんぐっぱら

槍ヶ岳からあこがれの氷河公園へ

槍ヶ岳から大喰岳、中岳、南岳と主脈をミニ縦走してから一気に氷河公園に下って周回してきました。
危うい天気予報の隙間を縫う感じで出かけたので槍ヶ岳の登りはほぼ終日雨に打たれましたが、肝心の槍から氷河公園へ歩いた日は天候に恵まれて夢のような稜線漫歩となりました。

関連ページ 
 表銀座 http://www.kimurass.co.jp/yariomoteginza.htm
 上高地散策 http://www.kimurass.co.jp/kamikouchi.htm
 西鎌尾根 http://www.kimurass.co.jp/yari.htm


      大喰岳より槍ヶ岳

          南岳頂上
【日程】 2016年8月26日〜29日
【山域】 北アルプス
【天候】 8/26曇り 8/27雨 8/28晴 8/29晴

【アクセス】 松本ICより新島々経由で沢渡(さわんど)駐車場へ。
ここから先はマイカー禁止なのでバスかタクシーに乗り換えて上高地バスターミナルへ。

4人ならタクシーが割安です。
【駐車地】 沢渡付近に市営、民営の駐車場がいくつもあります。1日600.−
【コース】
1日目
上高地 - 横尾 - 槍沢ロッジ
2日目
槍沢ロッジ - 天狗原分岐 - 槍ヶ岳山荘 - 槍ヶ岳往復
3日目
槍ヶ岳山荘 - 大喰岳(おおばみだけ) - 中岳 - 南岳
- 天狗原 - 天狗池 - 天狗原分岐 - 槍沢ロッジ
4日目
槍沢ロッジ - 横尾 - 上高地

健脚向き
【メモ】
上高地河童橋から岳沢
いつもの道:
一日目は上高地から梓川沿いをただひたすら歩くだけです。
明神岳の岩壁を見上げながら明神、徳沢、横尾とそれぞれ約1時間間隔です。明神は観光の人たちも多くざわついていますが徳沢、横尾と奥に行くほど登山者の領域となります。徐々に槍ヶ岳あるいは穂高岳へと近づいていくこの道はもう慣れっこです。ちょっとつらい道程ですが穂高にしろ槍にしろこの道を通るのはいわばこの山域の通行手形みたいなものですから誰も文句も言いません。
退屈な道かというとそんなことはなくて明神岳の壮絶な岩壁や奥又白谷を落とす前穂高北尾根のすさまじい岩尾根などを見上げながらの3時間は徐々に気合いも入ろうというものです。
横尾で涸沢への道と蝶ヶ岳への道を分けてやっと山道を歩くようになります。
約1時間で一ノ俣、さらに1時間弱で今回のベースとなる槍沢ロッジです。いつもはこのコースは下山時にとるばかりですので素通りしてしまいます。ですから泊まるのは今回が初めて。お風呂も入れるし食事も美味しいし、なかなか快適な小屋です。
パソコンが置いてあり天気予報が見られますがあまりよい予報ではありません。2,3日後に台風の襲来が間違いないということですから仕方ありません。(この後、東北、北海道でこの台風により多大な被害がありました。)

ハナウド(?)群落
雨の中の登高:
夜半から降り出した雨は止みそうになく出るか停滞するか少し迷いましたが台風が来る前に下山できないと困るので雨具を着込んでの出発となりました。
樹林の中の登りですからこれといって歩程の目安となるような景観はありませんが槍沢小屋跡(キャンプ地)、水俣乗越分岐、天狗原分岐がそれぞれおおむね30分程度の間隔です。
水俣乗越分岐からほどなくして樹林が切れナナカマドなどの灌木帯となりさらに天狗原分岐からは草原帯と岩礫帯が入り交じる(晴れれば)気分の良い登りとなります。しかしその分傾斜もきつくなり雨具を着けての急登にいささかうんざりです。
もうほとんどの花たちは今年の役目を終えていますが、それでも雪が遅くまで残った場所には小規模なお花畑も展開していました。息が上がってちょっと一休みというときの理由になるので二重にうれしい花たちです。
ハナウドと思われるセリ科の花が目立ち、他にサラシナショウマ、アザミ、ミヤマトリカブトなどけっこう目を楽しませてくれます。
最後は足が攣って青息吐息で槍ヶ岳山荘へ。
雨も止んで時たま穂先も見えるようになってきたので槍ヶ岳が初めての仲間たちは荷物を置いて頂上へ。
天気の予報はあまりかんばしくなく、実際にその夜は霧に包まれたまま明日の行動に迷う状況でした。気合い満点の仲間達にどう撤退を告げようか思案しながら眠りにつきました。

朝日を迎える槍ヶ岳
一転青空:
翌朝目覚めると濃い霧が流れてはいるものの雨は落ちてはいず歩けないほどの天気ではありません。はてどうしたものかと思案していたその時ぱっと陽光が差して黒々とした穂先が姿を現しました。
それ、出発。
ここから南に向けてミニ縦走です。槍ヶ岳3179.7mから大喰岳3101m、中岳3084m、南岳3032.9mと3000m峰が続きます。
槍ヶ岳キャンプサイトを通り抜けて飛騨乗越(飛騨沢下山路分岐)を通過し大喰岳まではいくらもありません。
大喰岳からは槍の穂先が手に取るように見えます。たくさんのハイカーがよじ登っています。頂上にも多くの人が立っているのも見えます。
その槍ヶ岳の先は遠く後立山まで届く大展望です。ときたま雲が視界を遮ったりしますがむしろそれが変化に富んだ景観を作っています。
中岳は頂上部を大石で埋め尽くされた石の山です。登りはハシゴがあったりはしますがさして苦労も要らずただの通過点のような山に思えます。ところが下りにかかると大石が折り重なった斜面で意外に難儀します。大石が折り重なっているだけでよくこぞの巨大な山体が保たれているものだと不思議な気がします。

      中岳、大喰岳、槍ヶ岳(南岳登路より)

   南岳を前景に北穂高岳、前穂高岳(南岳登路より)

大展望が続く主脈の道:
奥に薬師岳、右中景に鷲羽岳、左中景に三俣蓮華岳

中岳までは難なく通過しましたが中岳の下りから南岳までは距離もあってなかなか歩き甲斐があります。
とは言え、中岳の最後の登りだけは少したいへんな部分もありますが他は歩きやすい稜線で足も快調に運べます。なにより中部山岳のほぼ全体が視野の中という気分はそうそう味わえるものではありません。
周辺には東に常念岳・蝶ヶ岳の山脈、燕岳から大天井岳、西岳を経由し槍ヶ岳へと連なる表銀座、西に笠ヶ岳や双六岳が併走するようにずっと眺められます。その双六岳の先に黒部五郎岳、三俣蓮華岳、さらには薬師岳などが並んで見えます。
また北に目をやれば槍の右奥には白馬岳、鹿島槍ヶ岳、針ノ木岳など後立山連峰が雲海の上にくっきり浮かんでいます。
さらに遠く八ヶ岳、南アルプス、富士山なども視界の中です。

後立山(最遠景に白馬岳、白馬三山、旭岳、遠景に唐松岳、鹿島槍ヶ岳、針ノ木岳)
 


      笠ヶ岳

   鏡平、双六岳、黒部五郎岳

南岳:
南岳より穂高連峰

急な登りの割に南岳頂上はなだらかで小広い小平地でのんびりできます。しかし自身の穏やかな地形には似ずそこからの展望は荒々しく思わずその対比に戸惑います。
大キレットを隔てた北穂高岳、その左先に前穂高岳、右先に涸沢岳と奥穂高岳、なんとも豪快な展望です。
3組ほどのパーティーとソロの女性が北穂高岳を目指して下って行くとあとは静かな貸し切り状態となりました。静寂の北アルプス核心部、台風の予報のせいか昨日の大雨のおかげか、なんとも贅沢な巡り合わせとなりました。


横尾尾根を降って天狗原へ:
横尾谷右俣源流・南岳カールを見下ろす

天狗原分岐まで戻りいよいよ大下り開始です。
いきなり先が見えないほどの急峻な下りとなります。右も左も優しい景観のカールだというのにその両側のカールを隔てるやせ尾根は鎖やハシゴが続く意外にハードなルートです。背中合わせのカールを隔てるナイフリッジという典型的な地形(アレート)です。
この尾根は延々と横尾まで続く横尾尾根の最上部で、コースは途中の天狗のコルで尾根から外れるもののその先の槍沢沿いの道はずっとこの尾根と併走して横尾までたどることになります。

鎖と浮き石の危なっかしい道が終わると今度は大石の重なる歩きにくい下りが始まります。バランスに注意するのはもちろん岩に描かれているペンキマークを見失わないようにするのに気を遣います。

その大石の上にはおびただしい数のサルの糞が残されていました。標高2900mほどもあるこんな高所までサルが生息していることには驚きです。

かつて涸沢からの下山にパノラマコースと呼ばれている屏風のコルを越えるルートをとったことがあります。このとき屏風のコルから見上げた広大なカールが強く印象に残りました。横尾本谷の源流でありあまりに深い谷奥で当然人跡などないものと思っていましたがそのカールこそ今歩いている尾根の右に広がる南岳カールだったわけです。思いもしなかった景観のただ中に自分がいることに気付いて信じがたい思いです。
天狗池
やっと天狗のコルに降り立ちここからいよいよ今回の第一かつ最後の目標である氷河公園・天狗原へ。
天狗原に向けて3段ほどカールが現れます。それぞれが小さいながらカール壁やモレーンを形作って一人前です。そして最下段にあるのが天狗池のカールです。
永年思い描いていた天狗池。ところがまだ雪の残る時期ならば清冽な水をたたえているのでしょうが残念ながら渇水期とあってあまりきれいな池ではありません。これを見ずして死ねないくらいの思い入れとともにやっとやって来たというのに拍子抜けです。八方池を初めて訪れたときに似た気分です。八方池もこの天狗池も山を水面に映す定番写真を見てどんなにか美しいと思っていたのが濁り水にガクッと来たのは同じです。
おまけに槍ヶ岳に雲がかかって一向に姿を現しません。お昼をいただきながら待ちましたが痺れを切らして池をあとにしました。(このあとしばらくして槍沢へ降ろうかという場所に来て槍ヶ岳が姿を現しました。別々に見た姿を瞼の中で一つの画像に思い描きました。)
とはいえ、天狗池の名誉のために付け加えると過剰な期待をしていたために少々がっかりしてしまいましたが、稜線から天狗池を経て槍沢までの道は北アルプス奥深く入り込んだ雰囲気と左右のカールの景観とが相まってとても印象に残るコースです。今回のコース全てが素晴らしかったその中でももっとも感動的な気分で歩くことができました。

岳沢湿原
帰り道:
再度槍沢ロッジに1泊し翌日は上高地までまた延々と歩かなければなりません。
同じ道を戻るのも面白くないと思い明神からは右岸の道を戻りました。
たくさんのサルに遭いましたが人慣れしているのか一向に警戒しません。私たちの足元を平然と歩いて行きます。ただ日光のサルのように物をひったくったりねだったりという行動はしないようです。笹の若芽を抜いては口に運んでいました。(あたりの糞が緑色なのはそのためのようです。)
タクシー運転手の話では上高地では餌を与えないということを徹底しているためということです。
最後に岳沢湿原の景観を眺めて上高地の雑踏の中へ戻りました。


  雷鳥(中岳)

   ニホンザル(明神)

槍ヶ岳の花(クリックで拡大)

  ハナウド

  ミヤマトリカブト

  サラシナショウマ
【便利帳】 コンビニ:新島々
トイレ:沢渡駐車場、上高地、各山小屋(山小屋はカンパが必要)
【寄り道】 食事:懶亭(ものくさてい)松本市新村 お蕎麦 おやき
ひまわり畑

温泉:さわんど温泉・梓湖畔の湯 沢渡大橋至近
ひまわり畑:松本市新村国道沿い(ローソン前)
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