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清水岳 しょうずだけ2603m

人知れず花の園

清水岳を知る人はかなりの北アルプス通と言っていいかと。(^_^)
「しょうずだけ」と読める人はもう北アルプスオタクと言ってもいいかと。(^_^;
混雑の白馬岳からほんのわずか離れているだけというのにほとんど人にも知られずにあふれんばかりの花々が咲き乱れている清水岳、まさに秘密の花園です。
白馬岳を越えそこからさらに往復5時間の尾根歩きを要するいわば北アルプスの奥の奥ですが、そんなイメージとは違ってたおやかな尾根と豊かな雪田、そこここに出現するカールなどはむしろ優しい山といってよく、また清水谷・黒部渓谷のその向こうにすっくと立ち上がる劔岳や遠く聳える槍ヶ岳、穂高連峰など展望も第一級です。
そしてこの山の何よりの魅力は次々と展開するお花畑。白馬岳大雪渓上部のお花畑がそのまま尾根通しに続いている印象です。そんな花々に包まれての縦走路には行き交う登山者もほとんどなく、なんとも贅沢な花の山旅となりました。


       清水岳頂上直下標識(最高点は北側、三角点は南側)
         大雪渓上部葱平(ねぶかっぴら)付近のお花畑

        立山・劔岳

        白馬岳に帰着
【日程】 2011年8月7,8日
【山域】 北アルプス
【天候】 7日 雨、曇り
8日 晴、曇り
【地図】 1/25000白馬岳
昭文社山と高原地図白馬岳

【アクセス】 長野ICから国道9号、オリンピック道路(白馬長野有料道路−長野大町線)経由で白馬村。国道に出ずに八方を目指して道なりに進むと駅方面には行かずに八方を抜けて登山口へ。
【駐車地】 猿倉に駐車場。私たちは満車のため途中の二股駐車場に入れてタクシーで猿倉まで。(タクシー約\2,200.-) 
駅から二股経由のバスもあります。また山道を走るのが苦手なら駅前や八方にはいくつか駐車場もありそこからタクシーという方法もあります。
【コース】
1日目
猿倉
− 大雪渓 − 葱平 − 頂上宿舎(泊)

2日目
頂上宿舎 − 旭岳巻き道 − 小旭岳巻き道
− 清水平 − 清水岳 − 頂上宿舎 − 大雪渓
− 猿倉

実行程 1日目約6時間 2日目約9時間
      やや健脚向き 
      3日行程なら一般向き
【メモ】
大雪渓に踏み出す
 
久しぶりの大雪渓は意外にハードでした:
大雪渓を登るのはもう20年ぶりくらいで、その頃の感覚しかなかったので軽い、軽いと思ってナメていたらそこはやはり1000mの標高差、けっこうハードでした。軽アイゼンを忘れた仲間に貸して自分は昔のようにキックでステップ作りながら登っていたら長丁場なので足が攣ってしまってエラい目に遭いました。いつまでも若くはないと実感させられた登りでした。
おまけに途中から夕立模様で雨の中の登高となったため余計に消耗してしまったせいもあるかもしれません。
大雪渓から上部はたくさんの花に囲まれご機嫌でしたが、じつはここからの登りがたいへんで、雪渓が終わって登りが終盤かと思うとそんなことはなく雪渓で半分というところです。
葱平(ねぶかっぴら)付近から左手に天狗菱を見上げるようになります。かつて大崩落が起こり大雪渓を登るハイカーを襲ったことがある険しい岩場です。

北アルプスの山小屋は快適:
いつ頃からの傾向なのか今時の山小屋はどこも快適で、とりわけ北アルプスの小屋の食事といったら古い私たちには罪悪感さえ感じてしまうほどです。ちなみに泊まった村営頂上宿舎の夕食はバイキング式でなんと牛タンシチュウやデザートのプリンまでありました。(翌日のお弁当も小籠包まで入った豪華版でした。)
スタッフもてきぱきとして親切でとても好感の持てる山小屋でした。

         天狗菱

       葱平付近のお花畑     

大雪渓の花(クリックで拡大)

 キヌガサソウ

 イワオウギ

  ミヤマシシウド

 オオカサモチ

  ミソガワソウ  

 ハクサンフウロ 

 カンチコウゾリナ 

 シロウマアサツキ 

 シロウマタンポポ 

 ウサギギク 


旭岳 大雪田
 
いきなり花の縦走路:
眼前の旭岳に向かって縦走路が始まります。小屋からまずは下りとなりますがすぐにハクサンコザクラなど湿性お花畑がお出迎えです。
なだらかに下ると大雪田のルートとなります。ベンガラが撒いてありますが霧が出ると注意が必要かも知れません。大雪田が終わると白馬山荘からの道を合わせます。
険しい山容の旭岳は南側(左)を巻いていきます。旭岳の登路もあると言うことですが気づきませんでした。(旭岳から戻ってきたハイカーに聞いたところケルンが目印になるとのことです。)
この先もこの道は小旭岳、清水岳とも頂上を踏むことはありません。強いて言えば旭岳の先の1733m峰(裏旭岳)のみ頂上を通りますが、これは旭岳から派生した尾根の通過点程度でピークと呼ぶのは無理があります。昔からの祖母谷への道ですから楽しみに歩くわけではなかったため頂上を徹底して巻いているのかもしれません。山岳古道はいずこも同じです。

清水岳への尾根に咲く花(クリックで拡大)

 イワギキョウ

 クルマユリ

 ヨツバシオガマ

 エゾシオガマ

 タカネシオガマ 

 タカネマツムシソウ  

 ハクサンコザクラ 

 ハナニガナ 

 イブキジャコウソウ 

 ミヤマリンドウ 

一気に晴れ上がって槍、穂高、乗鞍まで遠望:
裏旭岳付近 清水谷、黒部峡谷を隔てて劔、立山と対峙して歩く
スタート時点こそ曇り空でしたが旭岳巻き道にかかる頃から一気に霧も晴れて突然、劔岳、立山が姿を現しました。劔岳はどこから見ても端正で雄大です。立山は普段富山平野から見るのとは90°違うのでちょうど屋根の側面を見るように三角形に見えます。
あっという間にさらに晴れ上がって遠く槍ヶ岳、奥穂高岳、前穂高岳、乗鞍岳まで見通せるようになりました。もちろん同じ後立山の唐松岳、鹿島槍ヶ岳なども見通せます。眼下には名もないカールが次々と姿を現しその下流では黒部の支流清水谷が深く谷を穿ってなんとも雄大な景観です。
前方、これからたどる小旭岳、清水岳の稜線もすっきり見通せて、それがうんざりするほど遠くに見えるので自然に気も急いてしまいます。
旭岳巻き道を抜けると一気に大下りとなり、帰路が思いやられます。


        裏旭岳付近から小旭岳 目指す清水岳は遙か先 

         裏旭付近から劔岳 

花の道:
縦走路には岩礫帯では岩礫帯の花、草原では草原の花、湿地帯では湿地帯の花とそれぞれの地形に特有の花々が次から次へと咲き誇っています。
コマクサ群落
 
岩礫帯、岩場ではコマクサ、イブキジャコウソウ、イワギキョウ、ミヤマアズマギク、ミヤマダイコンソウ、タカネスミレなどが目立ちます。草原ではハクサンフウロ、イワオウギ、タイツリオウギ、クルマユリ、シシウド、ミヤマリンドウ、カンチコウゾリナ、シロウマアサツキ、タカネナデシコ、カンチコウゾリナなどが目立ちます。湿地ではイワイチョウワ、コバイケイソウ、チングルマなどが目立ちます。
この花々を見るために登ってきたのでこれだけたくさん咲いて迎えてくれて大感激でした。
以前、雪倉岳、朝日岳から旭岳、清水岳を眺めて、そのなだらかな山容と同じ白馬岳からの派生尾根であることからきっと雪倉、朝日に匹敵するお花畑が広がっていることだろうと想像していましたが、実際その通りでした。
さらに花の多さに加えて静けさがまたうれしい山々でした。この日、私たちの他には祖母谷へ下っていったパーティーが3組、清水岳往復のパーティーが3組、旭岳付近まで散策という人たちが数人、たったそれだけでした。 

清水岳への尾根に咲く花(クリックで拡大)

 ミヤマアズマギク 

 ミヤマダイモンジソウ 

 ミヤマクワガタ 

 リンネソウ

 ハクサンイチゲ 

 シロバナハクサンフウロ 

 タカネイバラ 

 タカネスミレ 

 イワツメクサ

 ツガザクラ 

 イブキトラノオ 

 コマクサ 

 チシマギキョウ 

 シナノキンバイ 

 チングルマ 


長年思い描いていた清水岳頂上はスカッと外された感じ:
清水平は砂礫地、草原、湿地が織り混じった気分の良い平坦尾根です。小さな池などもあって庭園のような優しい景観です。
清水平 
 
池の周囲には湿地性の花が咲いているかと思うとそのすぐ近くは砂礫地でコマクサが咲いていたりと不思議な植生です。
その庭園のような平地の先にはなだらかな清水岳が待っています。
いよいよ永いこと憧れていた清水岳頂上。
しかし、あららら、なんと道は頂上をかすめてそのまま祖母谷へ下ってしまいます。そして山頂にあるべき山名板には「清水岳山頂直下」と記されていました。なんとも腰砕けの清水岳。
しかし誰しも山頂を踏みたいと思うらしく一筋の踏み跡が最高点目指して登っていました。当然行かないわけにはまいりません。
最初こそハイマツをかき分けなければなりませんがすぐに歩きやすくなってやがて山頂の縁の展望地で行き止まります。どこが最高点か判別しにくい平坦頂上ですが、どうもその場所よりハイマツの藪の中の方が高いような気がします。同じように感じた人たちが掻き分けた踏み跡らしきものがハイマツの中に突進していますがそれもすぐに判別不能となります。まあ、最高点「付近」てことで、いいか。(^_^;
さらにあとから気づいたのですが、当然最高点にあるものとばかり思っていた三角点は山名板(山頂直下)の南側、つまり最高点とは逆の位置にあったようで、これも見ることなく山頂に別れを告げてしまったわけです。結局、真の最高点も三角点もかすめただけの清水岳でした。
清水岳全容 右が最高点 やや左の禿凹地が山名板地点左高みが(たぶん)三角点
 
とはいえ、ずっと暖めてきた清水岳に登れた感激が薄まることはなく、花に包まれて歩いた一日はずっと山行の良い思い出となって心に残るはずです。まぎれもなく雪倉岳、朝日岳と並ぶ北アルプス随一の花の山でした。

難儀した下山: 
さよなら白馬の花たち・もう誰もいない大雪渓
 

帰路は予想していたとおり旭岳の登り返しで青息吐息。(^_^;
しかし、帰りともなれば花を楽しむ気持ちにも余裕があって往路とはまた違った気分で楽しめました。あ、これがあった、あれがあったと興奮しながら歩いた往路とは違って、群落の見事さやカールの底に群れ咲く花にも目が行って、この尾根が類い希な花の宝庫だと改めて感じました。
予定通りに小屋まで戻り、預けた荷物を受け取ってから食堂で早めの昼食にしました。
下りも花の中。途中葱平の上部のお花畑で高山植物案内をしていましたのでいろいろ教わってきました。イワオウギとタイツリオウギの区別とか、いくつかの花の漢字表記とか、なかなか楽しい案内でした。(謝謝)
葱平の下りを終えてあとは大雪渓を下るのみ。
ところがこれが落とし穴で、朝からの長丁場のせいで足が進まずペースがぐんと落ちてしまい、猿倉に着いたときは最終バスも出発してしまいました。まだタクシーは最後の2台が残ってくれていたために問題なく二股の駐車場まで帰れましたが、もっと時間がかかったらタクシーを呼ぶハメになるところでした。私たちの体力ではゆっくり清水岳を往復して丸一日の余裕の行程が無難だったようです。
【便利帳】 トイレ:各山小屋(協力金が必要です。)
コンビニ:国道を走らずに直接八方経由で猿倉に行く場合は途中に2店のみ。瑞穂交差点にセブンイレブン、八方交差点にローソン。