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松木沢散策 まつきざわ

圧巻、壮絶 松木沢で遊ぶ

今、手元にある古いガイドブック。
朋文堂刊マウンテンガイドブック「渡良瀬源流の山」小野尚俊著 昭和35年発行 \120.-。
私を山へ、とりわけ足尾の山々へいざなって人生を豊かにしてくれた本です。
その巻頭に松木谷の写真があり当時の草木一本とてない荒れ果てた光景を写しています。三川堰堤付近の写真も社山南陵(馬鹿尾根)の写真も1本の樹木すらない壮絶な景色です。
現在、たゆみない緑化の努力のおかげで幾分かは緑も回復して足尾周辺の山々はこんなだったかと思われる景観を取り戻していますが、山域によってその程度はまちまちでやはり壊滅的な打撃を受けた松木沢はまだまだ回復には時間を要するようです。それでも根気よく緑化植栽が続いていて私が初めて足を踏み入れた時代に比べるとよくぞこれまで緑が増えたものだと感慨深い思いです。

    松木村入り口付近
     中倉尾根
【日程】 2021年4月25日
【山域】 足尾
【天候】 曇りのち晴れ

【アクセス】 国道122号は足尾バイパスの田元交差点で右折して日光方面へ通じていますがその田元交差点を直進して122号から分かれて間藤、赤倉方向へ。赤倉を過ぎ前方に足尾堰堤が見えたら左下に銅(あかがね)親水公園駐車場。
【駐車地】 30台くらいは駐車可能。
満車の場合は手前にも駐車場があります。
【コース】
三川ダム - 久蔵沢仮橋 - スラグ堆積場
- 松木村跡 - 休憩舎みちくさ (往復)

行程  2.5時間 一般向き
【メモ】
作業道路を歩く:
スラグ堆積場

備前楯山に登ってアカヤシオを堪能しましたが下山してもまだお昼。もう一山がっつり登るには時間が足らないしこのまま帰るのももったいないし、はてどうしたものか。仲間の一人が松木沢を知らないというのでほんの入り口だけですが散策することになりました。
昔は旧松木村の先まで車で入れたのですが、現在は三川ダムの先にゲートがあり工事関係者、植林関係者以外の一般のハイカーの車は入れません。私たちは歩きに来たので一向にかまいませんが、鳥見の人たちが多く入り込んでいますのでなにか車で入り込む方策はあるようです。
三川ダム駐車場から久藏沢沿いに進んで仮橋で対岸に渡り植林現場を右に見ながら回り込むと松木川沿いの道となります。このあたりはほとんど工事現場という感じです。平日なら工事の車が通行して気が気じゃないかも知れません。
右手の尾根は大平山の末端でかつての銅山のスラグ(鉱滓)の堆積場になっています。尾根の上部から急なスラグの傾斜面が落ち込んでいます。その量たるや膨大で、もうこうなると植林でどうこうなるもんじゃなくこの先何百年もこのままなのかと暗然とした気持ちになります。
でも向かうその先に見上げる大平山は気分の良さそうな笹原とダケカンバの疎林が拡がって登高欲をそそられますし対岸の中倉尾根は壮絶な岩場をまとって圧倒的な景観で迫っています。ともにかつては人に会うこともない山域でしたが(特に中倉尾根は)今や人気の山に変貌しています。それもそのはず、登り一方の先にたどり着いた稜線には広大な笹原と大展望が待っています。
大平山

旧松木村:
旧松木村

いったん川幅が狭まってから広い平坦な草原に出ます。このあたりが旧松木村です。入り口に石塔が立っています。植林が進んではいますが基本カヤトの原です。
かつて村が存在したほどですから崩落を繰り返しているわけでもなく浸水を受けているわけでもない安定した土地ですので通常なら放っておいても樹林が生育するか笹が侵入してくるはずですがここでは土壌が変わってしまったのか周囲の山腹が荒廃したせいで養分が注がれないせいかなかなかカヤトの原から遷移が進まないようです。
そんなカヤトの原の中に埋もれるようにぽつねんと小さな石祠が建っています。もう真っ黒で銘も判別できませんが間違いなく旧松木村の人たちが建てた石祠ですからちょっと感動します。
周囲に座るのにちょうどよい石がいくつか頭を出しているのでここで遅めの昼食にしました。見上げれば豪快な稜線、見回せばカヤトの原と植林途上の若木の小さな林、なんと贅沢な食事でしょう。おにぎり1個ですけど。(^_^;
旧松木村の高台にある石祠

休憩小舎からジャンダルム 遠景は国境稜線の釜5峰
休憩小舎みちくさ
休憩舎みちくさ:
そんな景色の中にぽつんと小舎が建っています。「遊働楽舎みちくさ」の標識杭が立っていて、ちょっと寄ってみたらコーヒーをふるまっているというので遠慮なくいただきました。
「遊働楽舎みちくさ」はボランティア団体「森びとプロジェクト」が運営している休憩舎でボランティアの方がお世話をしていていろいろお話を聞くことができます。また資料や書籍があって足尾の知識が深まります。仲間の一人のルーツが足尾でおじさんだか大おじさんだかは松木の向こう側(群馬側)の根利山で銅山に必要な木材関係の仕事に従事していたそうで(根利山の消えた大規模村落の話はまたいつか。)、そんなこんなの話でちょっと立ち寄るつもりがすっかり長居をしてしまいました。
帰りにかわいいドングリの実と葉の模様が染められた手拭いが販売されていたので買ってみました。実も葉も、コナラ、クヌギ、ミズナラ、カシワ、シイ、シラカシなどちゃんと描き分けてあるので「おお、やるな」と楽しい気分になりました。
「遊働楽舎みちくさ」をあとにまた三川ダムまで荒れ果てた景色の中をのんびり歩いて盛りだくさんの一日を締めくくりました。備前楯山でアカヤシオもたくさん見たし、松木沢でジャンダルムも見たし、帰りには足尾のお団子まで食べたし、いい一日でした。

朋文堂のこと:

冒頭で触れた朋文堂刊マウンテンガイドブック「渡良瀬源流の山」のことについて。
このガイドブックは記憶では私が初めて手にした山のガイドブックだったかと思います。55年ほど前のことです。
今では古書店はおろか古書ネット検索でもかからず、国立国会図書館の他には大阪樟蔭女子大学、信州大学、一橋大学の図書館にしか蔵書として存在しないという代物です。
それはともかく、今はもうなくなってしまった朋文堂ですがかつては山の本をリードしていたということです。私でさえ名前くらいは知っているのですからかなり山岳関連では知られた存在だったのかもしれません。
その巻末の宣伝ページを見ると著者名にびっくりします。若山牧水、尾崎喜八、深田久彌、中西悟堂、冠松次郎、加藤文太郎、大島亮吉など錚々たる文人、登山家が顔をそろえています。旅行ガイドのムック並に軽くなってしまった登山関係の書籍や雑誌が多い時代ですがたまには山岳書というジャンルがあった時代を思い返してみるのもまた楽しいかもしれません。
【便利帳】  コンビニ:国道122沿いの「道の駅くろほねやまびこ」の隣。
トイレ:三川ダム、休憩小舎みちくさ
【寄り道】 お団子:安塚菓子店 ちょっとわかりにくいですが通洞駅近くの足利銀行から裏の通りに入ったあたりです。
     あんこ玉がウリらしいですが私たちはいつもお団子です。
     みたらしと小豆あんそれぞれ2本だけ残っていましたのでちょうど4人で1本ずつ。
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