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小黒檜山こくろびやま 1644m

赤城の主峰黒檜山に寄り添うようにひっそり立つ秘峰 


1999−10−9
きっと赤城の本来の姿を留めているに違いないと、ずっと気になっていた小黒檜山。
笹と薙のガレとの格闘3時間の末にたどり着いたのはトホホな山頂でした。とはいえ、その展望は第一級でした。

2009−10−4
ちょうど10年前、赤城北面道の黒檜沢橋から入山して笹と格闘の末に念願の小黒檜山に達したことがあります。とにかくすごい笹藪と行き止まりの薙に四苦八苦して稜線まで3時間を要しました。
まったく情報もなかったので黒檜山と小黒檜山の中間の稜線を目指せばいいかと思って突っ込んだのがいけなかったようです。
今回はその時に下山に使ったルートを逆にたどれば楽かと思って出かけましたが、獣のうなり声にビビってしまい、結局黒檜山へ一旦登ってそこから小黒檜山まで尾根伝いに歩くことにしました。
黒檜山からは下りになるので簡単に考えていましたが、どうしてどうして、笹が胸丈まで茂ってほとんど全ルート笹漕ぎで終わった印象です。
しかしその苦労を帳消しにする山深さが魅力でした。ひとりぼっちで笹に没して一休みしながら耳を澄ますと鹿の鳴き声のみが聞こえてきます。これぞ藪山の醍醐味です。
 

(一般ハイキングコースではありません。)

          黒檜山頂上

          シダの谷

          小黒檜山頂上
【日程】 1999年10月9日
2009年10月4日
【山域】 赤城
【天候】 晴/曇り後晴
【地図】 1/25000赤城山

【アクセス】 前橋から赤城道路を大洞。大沼北岸の道路を回り込むと北登山口駐車場。さらに北面道路を下ると黒檜橋。
【駐車地】
北登山口前に数台分。
登山口がいっぱいなら300mほど離れて大きな駐車広場。
【コース】 (1999)黒檜橋 - 大薙− 稜線 - 小黒檜山 - 北尾根笹原 - ヒカリゴケ駐車場 (約6時間)
(2009)北登山口 - 猫岩− 駒ヶ岳コース合流点 - 黒檜山 - 小黒檜山 - 北尾根笹原 - 北面道路
- 北登山口駐車場 (約5時間) 
熟達物向き
【メモ】 (1999−10−9)
地形図の破線は跡形もなし?:

1/2500地形図(昭和61年修正)赤城北面道路の黒檜沢黒檜橋から小黒檜山まで一筋の破線が延びています。そのままの形で残っているとはとても思えないにしろ、踏み跡くらいはあるだろうと淡い期待をかけて黒檜橋のすぐ上の沢から入山、笹をかき分けかすかな踏み跡を探しました。注意深く目を凝らして歩いたのですが、猛烈な藪でまったく人の臭いはなく、あきらめた頃にはすでにかなりの高さ。やむなく沢筋に降りて、登れるだけ登ってから黒檜山頂をかすめて稜線に出ようと考え、力ずく、腕力頼みの藪との格闘が始まりました。下から見上げては想像もつかない山深さ、時たま出くわす薙はまさに藪歩きの醍醐味、野趣満点です。
薙の上部は岩場となって、そこには花は終わったもののたくさんのダイモンジソウがへばりついて、花期の風情が想像できます。

稜線も藪同然:
やっとの思いで明るいダケカンバの緩斜面になって(この開放感!)、程なく稜線に出ました。 これは岡田敏夫氏著「足尾山塊の山」の赤城・袈裟丸縦走で触れている尾根で、赤テープはあるものの踏み跡は笹に覆われ失いがちです。忠実に尾根をたどると針葉樹帯となってシャクナゲがあらわれ、やがてレンゲツツジが目立つようになるとひょっこり小黒檜山頂に飛び出しました。藪との格闘、じつに3時間。

山頂はトホホなとんだありさま!でも展望抜群:
ところがこれはいったい!山頂にはでっかい電波反射板が!なんてこった。
藪との格闘のご褒美として静寂に包まれた孤高の頂きを想像していたのに。道もあやふやなこんな山頂にどうやってこんなでっかい物を持ち上げたのだ! おまけに北面道路をサーキット場と勘違いしているバカの吹かす爆音が届くので二重にがっくり。
でもそれらを差し引いても素晴らしい北面の大展望です。袈裟丸から皇海山、その先に日光白根山、錫ヶ岳、さらに燧の双耳峰、アヤメ平、至仏、笠の尾瀬一帯、そして圧巻はドンと根張り大きく広がる武尊の連峰です。黒檜山頂が木立に覆われて北面の展望が得られにくくなった最近ではこの角度から眺められるのは唯一ここに限られるのではないでしょうか。展望はさらに左に谷川・仙の倉の稜線、白砂山方面へと広がります。その左はあいにく雲の中で判然としませんが、いずれこんどは赤城の山々に阻まれるので近景を楽しむことになります。鈴ヶ岳、地蔵岳、そして仰ぎ見るような黒檜山の大きさ。 また尾根の東側にあたる赤城東北面の山深さもうれしい景観です。ツグミの大群がいくつもうねるように飛んでいました。

下山はさらにこの尾根を北進:
黒檜山に戻れば高度差はあっても確実です。でも北に気になる草原(実際は笹原でしたが)が見えます。仮に藪だとしてもさらに先には送電線も見えるし巡視路くらいはあるはずです。これは先に行かない手はありません。
降り始めるやいきなり身の丈を没する笹の密藪。方向を定めて突進するしかありません。やがて尾根が顕著になると古い山道の跡がはっきりしてきて、かなり歩きやすくなりました。上から草原と見えたのは明るい笹原で、一部ススキの原となっていました。なかなかの雰囲気です。ここが1515m峰。 尾根歩きもここまでで、これ以上進むと根利の奥、赤城沢になって帰るに帰れなくなります。ここから1400m峰を目印に一気に下降しましたが、消えたり現れたりする古い踏み跡が今は鹿道となっておおむね楽な下降でした。1400m峰を目安にしたため北に広がる平坦な谷に入ってしまいましたが、ここがシダの繁茂する幻想的な場所で、拾い物の気分。最低鞍部からは道形も現れ簡単に北面道路のヒカリゴケ駐車場に飛び出しました。(ヒカリゴケは枯れているようです。) ここから約1時間弱、ツルリンドウや野菊を楽しみながら舗装道を黒檜橋に戻りました。

(2009−10−4)
逆コースで登り始めたものの獣の気配にビビってすぐ撤退:
10年前に挑んだときには情報も皆無で、黒檜橋から当てずっぽうで突っ込んだため笹藪の登りにとてもひどい目に遭いました。それに懲りて今度はそのときの下山ルートを逆に登るつもりでヒカリゴケの駐車場から入山しました。(ヒカリゴケはすでに枯死したらしくヒカリゴケ生育地跡となっています。)
しかし、とりつきだけは昔通りかすかな道跡が残っていましたがそれもわずかでいきなり道を失いました。10年経てば道形は消えるようです。
あたりには獣の掘った跡がいくつもありちょっと嫌な感じだと思って登っていると小尾根の向こうでなにやらうなり声がして、これは逃げるに如くはなしとばかり駆け下りました。

黒檜山から:
ツツジの紅葉
 

仕方なしに黒檜山に一旦登ってから小黒檜山まで尾根をたどることにしました。
猫岩を経由する北登山口まで車を走らせましたが登山口前の駐車地はすでに数台の車でいっぱいで、登山口先300mほどの駐車場に車を停めました。かなりのハイカーが入山しているようです。
ほぼ1ヶ月ぶりの山ですし、その間全くの運動不足でいきなり息が上がってしまい次々と追い越されながらなんとか黒檜山頂上へ。
途中霧がかかって展望もなくただただひたすら登ってきたためか皆さんに追い越されながらも意外に短時間で登り着きました。途中、何カ所か大沼を見おろすはずですがあいにくの霧でまったく湖面は姿を見せてくれませんでした。紅葉は全体まだまだでしたが、ツツジだけは真っ赤に染まってみごとでした。ただ、カエデ類の多くは色づかずに落葉してしまったようです。
頂上には10人以上ものハイカーが休憩していましたが、周囲はかつてのような灌木ではなくかなり樹々が繁茂して展望も限られていますので写真を撮って早々にあとにしました。頂上から平坦な頂稜をそのまま進むと北西側が開けた地点に出ますので昼食にはそちらの方が楽しいかも知れません。(行き止まりと書かれた古い案内板がありますが道はそこまでしっかり通じています。)
2人連れのハイカーがいるだけで頂上の賑わいが嘘のようです。行く手に目指す小黒檜山が見えますので尾根の方向をしっかり頭に入れました。鞍部までかなりの大下りで顕著な尾根はなくここは方角のみを頼りにしなければならないようです。コンパスは手につかんだまま離せそうにありません。鞍部までは北北西に進み、鞍部からは北に進めば良いようです。もっとも鞍部の先は尾根となりますから鞍部まで方向を間違えなければ問題はなさそうです。

笹に難儀の大下り:
前回黒檜橋から稜線に出たところで尾根道を見ているのでそこそこ道跡くらいはあるだろうと高を括っていましたがいきなり踏み跡さえないありさまでのっけから笹を漕ぐハメになりました。胸まではあろうかという笹の密藪でオマケに急な斜面に倒木だらけです。
深入りしないうちにあきらめて登り返そうかと弱気の虫が頭をもたげましたが、迷いながらもずんずん下ってしまいいまさら戻るのも大変で半ばヤケクソ気味でもう行くしかないという気分になりました。コンパスと睨めっこでどうやら方向も違えずに最低鞍部に達するとそこはすでに顕著な尾根となってもう迷うこともなさそうです。
至近から鹿が一頭飛び出しました。このあたりは最近まったく人の入った気配はなく鹿の天下のようです。
鞍部付近はちょっとした岩などもあって一時笹から開放されますがそれはほんのわずかで鞍部から登り返しにな
ひたすら笹を漕ぐ
 
るとまた笹と格闘となります。笹の浅いところでは膝程度ですが深いところでは胸くらいもあって、これはずっと小黒檜山手前まで断続的に続きます。

尾根道も笹ばかり:
尾根がはっきりすれば笹からも解放されると思って期待していましたがいっこうに笹が薄くなることはなく、そのため尾根道もほとんど消えていました。ほんのたまに尾根が痩せた箇所では昔この尾根に道が通じていたことを窺わせますが、それはほとんど点といっていいほどで尾根全体を見れば道はないに等しいくらいです。
10年前に尾根に飛び出したあたりでは尾根道が通じていましたし尾根では笹もわずかでだいたいは灌木帯でした。その記憶があったから黒檜山からは比較的簡単に小黒檜山まで達することができると踏んだのですが、それがたった10年でこの違いです。人が入らなくなった山域に入り込むときには道跡、踏み跡、植生などの変化にはかなりの覚悟をしないといけないのかもしれません。

覚えのある頂上:
やや登りとなると覚えのある頂上にひょっこり飛び出します。あいにく霧で周囲の展望は得られずわずかに北東面の深い樹林が見下ろせるだけでした。見上げる黒檜山は霧に隠れがちですが時々そのでっかい姿を現し、やはり赤城の盟主だと思わせるに充分な雄大さです。
ただここも周囲の樹々が育って西側の展望は得られなくなっていました。
ここで今日初めての大休止にしましたが、だんだん霧が出てきたので腰を上げて下山ルートを考えなければなりません。

露岩尾根
 
下山はどうしよう:
朝に逆コースから入山したもののすぐに獣の気配に怖じ気づいて撤退したのでそこを再び通ることは全く考えていませんでした。多少大変でも黒檜山まで登り返すつもりでいました。しかしあの笹密藪の急な登りはかなり困難です。仕方なし北面道路へ下ることにしました。熊除けに時々笛を吹いていけば大丈夫でしょう。(ちなみに笛は遭難の合図と間違えないように単発で短くピッと鳴らす程度にします。)
小黒檜山の北側は見た目はすっきりした笹原です。しかし実際は胸まで没する深い笹でかき分けて進むのにけっこう苦労します。
笹原を下りきると樹林となりますが笹は相変わらずで道の痕跡も所々でうっすら感じられる程度です。しかし尾根ははっきりしていて迷うことはなくひたすら笹を押し分けて進むだけでルートに悩むことはありません。
前回登ったときには尾根が狭まって樹林帯になったあたりから笹も消えていたのですが現在は樹林下もすっかり笹に埋め尽くされてしまっています。
しばらく尾根をたどると前方に露岩が現れ、その手前から左にかすかな道跡が下りています。笹の背丈も低く下山に使えそうなのでここで尾根を離れましたが100mほどで笹の背丈も胸ほどになり藪に消えてしまいました。
また尾根まで登り返してしばらく尾根筋をたどると広い笹原が現れます。ここから先に進むと北面道路側へ下山できなくなるためこの笹原は現在地を知る目安となります。
左(西)に斜面を下るとすぐに山葡萄が茂っていました。猿が食べてしまったのかすでに実はすっかり無くなっていました。
最後の笹原
 
地形図を読むとこのまま斜面を下ると一つ谷を違えて北面道路へは出られません。ですから左へ左へとトラバース気味にコースを取りながらひたすら笹を分けて下って行くとシダの茂った谷に出ました。ここまで来ればさしもの笹も勢いがなくなってあとは適当に下っていくと北面道路に飛び出しました。
結果的には笹はどこを下っても同じように繁茂していましたので尾根から分かれた道跡を下れば良かったようです。(北面道路に出た地点にはカーブ37の標識がありました。朝方入山しようとしたヒカリゴケの駐車場より少し上になります。)
そこからバイクのサーキット場と化した北面道路を登って五輪峠を越え北登山口駐車場までの長いこと。

今さらながら赤城の山深さを再認識した笹漕ぎの一日でした。笹は前回登った10年前よりかなり繁茂してしまったようです。
【便利帳】 トイレ:もちろん途中にはなく大洞ですましておいた方が無難