目次
家の串越え 田沢奥山1216m かつての峠道をたどる

2000-5-4(こちら)
私を山歩きの世界に誘ってくれた1冊の本「渡良瀬源流の山」(小野尚俊著 朋文堂 昭和35年)に「家の串越え」が 紹介されています。著作権にふれない程度に要旨の引用をしてみます。
「このワンデルングは風薫る五月、あるいは紅葉の錦が山野を埋める十月を推す。峠をめざすワンダーラーの想いは、 おのずから峠の彼方の山と谷と、そこに息づく山村につながっている。根利郷は、その夢を裏切らない淳朴な人情の 織りなす平和郷である」
心を誘わずにおかない名文調の語りに惹かれ、いつの日か歩いてみたいと長いこと思い続けていましたが、いかんせんかつて小中と根利を結んで多くの往来があったと言われる峠道も今はなく、それもなかなか果たせずにいました。
10年ほど前、思い切って単独で小中川の支流、桜川を詰めて登ってみましたが、そこは思い描いていたとおりのすばらしい場所でした。高原情緒いっぱいのまさにワンデルングと呼ぶにふさわしい心に残る峠の山歩きでした。
「家の串」とはどこをさすのかはっきりしないと言うことです。この一帯を総じて指すという記述をときどき見ますので、山名でも峠名でもなく一帯の総称と考えるべきかもしれません。
今回は同行者を得て、アカヤシオを求めての再訪でした。

なお、家の串越えについては、これもたぶん絶版かと思われますが 「足尾山塊の山」(岡田敏夫著 白山書房 昭和63年)にも「家の串越えと村界尾根」として紹介されています。雑誌や会報はともかくガイドブックとして紹介されているものは私の知る限りこの2冊のみかと思われます。

2022-5-5(こちら)
初めて足を踏み入れて以来主にアカヤシオの季節に何回か歩いていますがここ十数年というものすっかり足が遠のいてしまいました。ネットを見ると最近たまにこの山域に踏み込む登山者もわずかながら出てきているようでうれしくもあり残念でもありという気持ちです。
とはいえ、一帯が野生の領域であることには変わりなく久しぶりの静かなワンデルングを楽しむことができました。
それにしても自然の遷移の早さにはびっくりしました。家の串越え付近の広いカヤトの原がコブシを配してのどかな景観で待っているものとばかり思っていましたがなんとあたり一帯はすっかり樹林に変遷していました。それはそれで下草がきれいな明るい樹林の新緑が素敵ではありましたが時の移ろいのなんという早さ。

(一般ハイキングコースではありません。)

2000年5月4日の記述はすでに年月を経て変貌著しく現状を反映していません。かつての家の串はこんなだったかと読んでいただければうれしいです。
最近の状況は2022年5月5日の記述を参考にして下さい。

関連ページ 家の串・村界尾根 http://www.kimurass.co.jp/sonkai.htm

【日程】 2000年5月4日(こちら)
2022年5月5日(こちら)
【山域】 足尾山塊
【天候】
【地図】 1/25000袈裟丸山、上野花輪
【アクセス】 国道122号線を北に足尾方面に向かい小中で左折、大滝方面に入ります。
最奥の集落にある追付橋を越えてほどなく左に分かれる林道があります。この林道を道なりにすすんで行けるところまで。
【駐車地】
「はしくらはし」を渡った先の林道路肩。
何度も車底を擦りましたのでもっと手前で駐車すべきでした。
この先で道路崩壊。
【コース】

 小中=桜川林道−家の串越え(村界尾根)−田沢奥山−カヤト(郡界尾根)−田沢川源頭
−村界尾根−送電鉄塔−桜川林道
(ベテラン向き)

【メモ】
2000-5-4

      密やかな家の串越えの旧峠

   カヤト広がる広闊な家の串 右奥に田沢奥山

美しい桜川:

小中川沿いの道をたどり最後の集落の中心にある橋が小中の追付橋。ここから程なくこの近在ではよく知られた大滝です。
その集落の先で左に分岐する林道が桜川林道。通う車もなく新緑に包まれた気分の良い道です。やがて林道は桜川に沿って走るようになりますが、この沢は小滝を連ねてあくまで明るく、じつに良い雰囲気を見せています。この沢沿いの道を散策するだけでも楽しい一日になりそうです。
林道は車止めもなく、車高のある車なら終点まで行けます。

古道を偲んで登る:
かつての古道は沢沿いではほとんど切れ切れの痕跡程度となって、おおかたは飛び石伝いに沢を歩くことになります。コチャルメルソウのひょうきんな花がたくさん咲いていました。
途中二股がありますが、ここは左に登路をとります。迷いやすいのはここだけ、あとはひたすら沢を詰めるのみです。沢といっても足を濡らすことはありません。
やがて頭上に稜線を認めるようになると道形もしっかりしてきて、かつてたくさんの人たちがここを越えて根利やさらに遠く沼田に通ったことを偲んでしみじみとした気分で歩きました。
稜線に出ると向かいの田沢川源流一帯は高原状の地形で展望も開けます。
まずは右頭上に高く頭をもたげている田沢奥山の頂上を踏まなければと家の串越えの峠道を左に分けてそのまま稜線通しの踏み跡を登りました。

静かな展望峰・田沢奥山:
お目当てのアカヤシオは花期にはまだ早く、気の早いのがつぼみを紅くしている程度でした。
それにしてもすごい群落です。南西斜面はほぼアカヤシオ純林と言って良いほどで、これが一斉に花開いた景観はどんなでしょう。
やや木の間越しにはなりますが、間近く袈裟丸山群が大きくそびえ、また西に目をやると上州武尊や上越国境が雪をまとって白く輝いています。足下は深く切れ落ちて深山の雰囲気が濃く、この一帯に我々2人だけだという実感が嬉しい気持ちにしてくれます。

すばらしい家の串越え:
人知れず咲くタムシバ(拡大画像)
 

田沢奥山からつぼみの膨らんだアカヤシオの林を西に下るとその一帯は家の串越えの核心部、背後にミズナラの林をひかえ緩やかな高原が広がっています。山桜の巨樹が印象的でした。満開の頃訪れてみたいものです。
郡界尾根をしばらく散策してからカヤトの広がる田沢川源頭を横切り最初に登り着いた村界尾根に向かいました。田沢川源頭はそこここに泉が湧き鹿の足跡が入り乱れ、またタムシバの白い花がちょうど咲き始めで、夢のような景観でした。いつまでもいたい気がしましたが先の行程もあるので適当に家の串越えの峠道を見当付けて進みました。なだらかなこの一帯は下草もなくどこを歩こうがいっこう構いません。
やがて峠道に出てあとは水平道をたどって村界尾根に戻りました。

送電鉄塔からの展望:
村界尾根をしばらくたどると北栃木幹線の送電鉄塔が現れます。ここからの展望は素晴らしく、安蘇山塊が一望です。行く手に高く1216m峰がどっしり構えて、その山腹をアカヤシオがピンクに染めていました。鉄塔の先に100mほど進むとそこも伐採地となって赤城方面が開けていました。双眼鏡で眺めると栗生山一帯のアカヤシオが満開、一方これから目指そうとしていた村界尾根はまだまだ開花にはほど遠く山肌は褐色のままです。村界尾根のアカヤシオは次回に譲り、急遽栗生山に転進と相成りました。(栗生山)
下山は送電線巡視路がありますので登りの沢筋とはうって変わって難なく駐車地に降り立つことができました。

2022-5-5
久しぶりの家の串は一変していました:
久しぶりに訪れた家の串越えの景観は一変していました。
崩落した林道 あたりは新緑がまぶしい
 

途中の人家は無人となって荒れるに任せる状態でかつて庭木として人家を包むように咲き誇ったツツジが今もむなしく咲いていました。
林道も荒れ放題で何度も車の底をガリガリしながら頑張ったものの「はしくらはし」と記された橋を渡ったところでついにギブアップ、路肩に駐車してあとは林道歩きとなりました。歩き始めてすぐに舗装の下がえぐれるように流出して舗装面が崩落していました。一見舗装面が保たれている路面もストックでたたいてみると異音がして舗装面の下部が流失しているようです。危うし危うし。ギブアップして正解でした。この道路はすでに役目を終えたようです。
しばらくは桜川沿いを歩きますが新緑が美しく林道歩きも気になりません。林道から沢を見下ろすと所々にかつての峠越えの道の痕跡を見ることができます。以前はそちら(沢筋)を登っていましたが今も通過可能でしょうか。
桜川の新緑
袈裟丸山バラ沢峠へと続く送電線
 
やがて送電線巡視路の標識杭を見たら樹脂の階段を一気に稜線目指して登ります。巡視路は電光を切ってあるのでさほどきつい登りではありません。ひと頑張りで傾斜が緩くなって下草の薄い平坦尾根の鞍部に登り着いたらあとはきれいな樹林帯の中を送電鉄塔をめざしてわずかにだらだら歩き、すぐに巨大な鉄塔が姿を現します。北栃木幹線の送電線を支える巨大鉄塔です。
この山域を歩き始めた頃にはまだ鉄塔はなくもちろん巡視路もありませんでした。ヒノキの幼樹の密生する植林地の中にテープのマーカーが一直線に続いていましたが今思うとそれが巡視路と鉄塔の工事のはじめの一歩だたったということです。

稜線はホントにのんびりとした景観です:
のんびり歩く稜線
 

送電鉄塔からの展望を楽しんでから来た尾根を返して家の串越えまでまたのんびり歩きです。ミズナラなどの巨木が目立ちますが林床は落ち葉や芝草や短いミヤコザサなどでどこを歩いてもかまいません。もっとも明瞭な道があるわけではないので自然好き勝手なことになってしまいます。やがて右手が桜川源頭の断崖となって険しい地形に変わります。左手は相変わらずのどかな平坦斜面です。


家の串越え
家の串越え:
右側が険しくなったあたりで後方から広く明瞭な道跡が登ってきています。家の串越えの痕跡です。この道は桜川の沢筋を上ってきますが最後は急峻な源頭部を避けて小尾根に登ってから稜線を越えています。沢を歩いていてもどこで小尾根に登るのかは気づきませんがいずれにしても峠越の道ですから急峻な源頭は避けるのが普通ですからこうして尾根を斜めに横切るルートとなっているようです。
峠を越えるとそのままトラバースして根利方面へと続いているそうです。興味は尽きませんが帰りのことを考えるととてもとても行けません。
かつてはこの峠の先は広々とカヤトが広がりコブシが咲いてそれは夢のような景観でした。ところがいまやすっかり樹林帯に様変わりしてかつての姿をとどめているのは田沢川源流の最初のひとしずくとなる泉とその泉を取り囲む鹿のヌタ場のみです。
せっかくここまで来て田沢奥山のピークを踏まない手はないと言う元気いっぱいの仲間を送り出して待つ間に峠付近で芝草の斜面に腰掛けてこの山域の山深さ、静寂さを心ゆくまで感じました。
咲き残りのアカヤシオ
 
下山は登路をそのまま返しました。あっと言う間。巡視路のおかげです。当初はこんなもん作りおって、とか言ってたんですが体力気力が弱ってくるとありがたや。(^_^;
【寄り道】

大滝。最近、人気上昇中です。

【便利帳】 トイレ  :122号沿いの手前に道の駅。あるいは直進して草木ダム。