目次
赤倉山 あかくらやま 1442.0m

笹と疎林のなだらかな別天地
からアカヤシオの尾根へ

古いガイドによると展望もなく藪山好みの登山者向きの山とされていて、これまで登る気もしなかったのですが、たぶんある時期に足尾の笹がすっかり入れ替わってからなのでしょう、素晴らしい景観だという話を聞くようになり、それではとアカヤシオの時期を狙って登ってきました。
広闊な笹の原とダケカンバやミズナラの疎林はまさしく別天地と呼ぶにふさわしい景観でした。また下山に歩いた尾根は惜しげもなく咲く満開のアカヤシオに埋もれてしまいそうで夢見心地でした。

一般ハイキングコースではありません。


         静かな赤倉山頂上
        咲き乱れるアカヤシオ

         男体山と半月山
           社山馬鹿尾根(南陵)
【日程】 2011年5月14日
【山域】 足尾
【天候】 晴れ
【地図】 1/25000中禅寺湖、足尾

【アクセス】 足尾バイパス田元交差点を直進(国道は右折して日光方面へ)、わたらせ渓谷鉄道間藤駅の先、足尾赤倉郵便局を右に見てすぐ先に南橋バス停があり、そのバス停向かいの深沢林道へ右折。(とくに林道入り口の標識などはありません。)
悪路を1.5kmほど登ると林道終点広場。
【駐車地】
 
広場に10台くらい駐車可。
【コース】
林道終点
−一の茶屋跡− 笹原
− 赤倉山 − 笹の平坦尾根 −林道出会
−アカヤシオ尾根 − 深沢支流 −金山茶屋跡
−一の茶屋跡 − 林道終点

実行程約7時間 ベテラン向き
【メモ】
石畳道の残る半月峠越えの道
 
半月峠越えの古道:
駐車地から左手の沢に下り深沢を渡ります。増水時でなければ飛び石で渡れますので足を濡らすこともないはずです。
この道はかつては足尾と日光を結ぶ半月峠越えの道で、初の茶屋、二の茶屋、一の茶屋、金山茶屋、見晴らし茶屋と5つの茶店があったということです。その後昭和11年に細尾峠に自動車道路ができて峠越えの道の役割を終えた後も半月峠越えはメジャーなハイキングコースのひとつでした。(かつて峠越えは山歩きの一つのジャンルであったようです。)
所々石組や石畳の痕跡が残る道は道幅も広く確かにかつてかなりの往来があったことを忍ばせます。しかし、今では石畳の痕跡と斜面から崩れ落ちた石とがごっちゃになって折り重なり却って歩きにくいため普通の登山道より難儀します。
道は地形図にあるとおりほぼ右岸側につけられています。(一部崩壊のため沢を渡ることもあります。)
やがて左手に石垣を見るとそれがたぶん二の茶屋跡かと思われます。ただ、特にそれを示す物は見当たらず確認はできませんでした。途中何カ所か枝道や踏み跡が左手斜面に登っていきますが、サイトを巡ってみるとそれぞれの踏み跡をたどって尾根を急登しているようで、これがメインルートだと言えるような道もなさそうです。
私たちはかつて歩いたという仲間からの情報を得ていましたのでその下山にとったルートを登ろうとさらに先から取り付き、1314m点の尾根を登ることにしていました。

ツツジに包まれた登路:
地形図で見て破線で示す道が急に曲がりくねっている箇所に石垣があり、ここがたぶん一の茶屋跡と思われます。すぐ先にロボット雨量計が設置されています。
道は小尾根を回り込みますがこのあたりには鹿除けのフェンスが設置されています。
このフェンスはしばらく道に沿ってから小尾根の先端で向きを変え尾根を登っていきます。フェンス設置の時の作業道の痕跡が認められますのでここを登路としました。かつて仲間が下りにとったルートです。情報では(10年前には)道があったとのことでした。
道と言うにはちょっとあやふやですが、確かに登るに従って徐々にしっかりした踏み跡になって、フェンスがなくなる頃には消え消えながら尾根道と呼べるような道になりました。
あたりは新緑につつまれ、たくさんのミツバツツジがちょうど満開になったばかりの鮮やかな花を枝いっぱいにつけていました。どうやら花付きは当たり年のようです。
登るほどに展望も開けてきて、古峰ヶ原方面のなだらかな稜線や足尾のどこか集落も見えました。
突然先頭を歩いていた仲間が悲鳴を上げて、いったい何事かと思ったら死んで間もない鹿の遺骸が横たわっていました。まだ腐乱もしていなかったのですが内臓だけはすっかり食べられていました。肉食野生動物は先ず内臓を食うと聞きますが、なるほどそのようです。この先もう一度同じような遺骸を見ましたし、骨はあちこちでいくつも遭遇して、このあたりの鹿の密度を実感しました。
コメツガが現れて亜高山の雰囲気になると急登も終わります。このあたりではアカヤシオもちらほら見られるようになります。

      トウゴクミツバツツジ 
 
      ミツバツツジ天井

別天地赤倉山:
急登からややなだらかな尾根になるといかにも足尾らしい景観に変わります。ミヤコザサの原とダケカンバ、ミズナラ、コメツガなどの疎林は足尾のあちこちで見慣れた心落ち着く景色です。ほとんど訪れるハイカーもないようで人臭さの全く感じられない一角です。
なだらかな笹原とダケカンバ疎林は別天地
 
どこを歩いてもかまわない笹原ですが背丈の低いミヤコザサとはいえかき分けて進むのはけっこう負担になります。そこでこんな場所では縦横に走る鹿道を歩くことにしています。
地形図で見ると尾根をそのまま登ると一旦1420m峰に登り着くようになりますが、実際は草原のような地形で等高線に沿ってなるべく登降を少なくしながら直接赤倉山を目指しました。
赤倉山はこれといった特徴もない拍子抜けのするような頂上です。立木のため展望も木の間越しであまりパッとしません。
そこで透かしてみると樹木が切れて展望が得られそうな頂上の西に尾根通しに下ってみました。
そこはあっと驚くような大展望です。北の方向に疎林が切れて社山、大平山、松木沢、中倉尾根、皇海山が一望です。
とりわけ松木沢はちょうど真向かいに位置するためこれほど全貌を眺められる山は他にないはずです。松木の沢の奥に国境稜線が壁のように横たわって釜五峰、カモシカ平、国境平、そして盟主皇海山が高々と頭をもたげています。
また社山、大平山もその全貌が視界いっぱいに広がってその根張りの大きさに圧倒されます。とにかく、でかい!
ともに最近足尾側から苦労して登って感動的な景観を見ている山なのでその全体像を眺める気分はまた特別なものがあります。
しばし小笹の上に腰を下ろしてこの大展望を楽しみました。

 
        赤倉山展望地から中倉尾根と皇海山
 
       赤倉山展望地から大平山

                      赤倉山展望地から望む松木沢全貌
いつまでも眺めていたい景色ですがまだ先もあるので心残りですが腰を上げ北へ向けて再びスタートです。
笹原に湧く泉 四方から鹿道
 

今度は一つ一つなだらかな高みをたどることにしました。赤倉山から北へ向かい最初の1330mで右に折れて次の1410mまでがハイライトです。ミヤコザサの笹原に一列に並んだダケカンバの大木はなんとも心和む姿です。まさしく別天地です。
なだらかな起伏の一角に泉が湧いてそこが深沢の水源の流れとなっています。鹿の水飲み場となっているらしく四方から鹿の足跡が集まっていました。
私たちはそれぞれ勝手に笹原を突っ切り次の高みに向かいました。 

アカヤシオの尾根:
アカヤシオの海
なだらかな笹尾根は4つの高みを経て終わります。
このあたりから向かいの尾根にびっしりと密生したアカヤシオが眺められ、これはどうしてもあそこまで行かないわけにはいきません。
最初の大登りで登り着いた1448mピークが大畑山。ここで遅めの昼食としました。これといって特徴もないピークですが何より静けさがうれしい頂上です。ゆったりコーヒーを淹れて至福のひとときです。
昼食後、さらに大登りで1514m。このあたりはあまり特筆するような景観もありませんが、足尾らしいミヤコザサの尾根です。
一旦下ると左手が大きく崩壊した地点に飛び出します。久蔵沢支流足倉沢の源頭です。すさまじいばかりの崩壊に今更ながら足尾の自然の脆さにぞっとします。崩壊地のまさに崩れようとしている縁にアカヤシオがけなげに咲いていました。
たぶんここの治山工事のためなのでしょう、上部から作業用道路を延伸する測量の杭などがあちこちに打ってありました。
その杭やテープの間を通ってカラマツ林の中の最後の登りで突然車道に飛び出します。治山工事用道路のようです。左手に少し進んでみると左(西)方向に展望が広がっていました。しかし先ほど赤倉山から大展望を楽しんだ目からすると作業車道からの展望はあまりパッとしません。
足倉沢上部崩落地
 

 

アカヤシオに埋もれて下山:
アカヤシオの尾根
 

展望地から戻りそのまま作業道路をたどると先ほど確認したアカヤシオの尾根上部に出ます。道は小尾根のすぐ右下を通りますがその小尾根もアカヤシオが満開でしたので私たちは尾根通しにコースをとって満開のアカヤシオの中を歩きました。
満開になったばかりで色鮮やかな花びらをゆらゆらと揺らして、私たちはまさに夢見心地。
一旦道路に降りて突っ切りそのまま尾根を急下降しました。踏み跡もありませんがアカヤシオの林床はミヤコザサや草付きでどこを歩こうと勝手です。
あたり一面アカヤシオ、アカヤシオです。なんと可憐で艶やかな花でしょう。
大木がほとんどなので自分の視線は花の下になってしまいますが見上げるとアカヤシオの中に沈んでいる気分です。
西の向かいに見える尾根から走る支尾根にもびっしりアカヤシオが咲き誇っていました。先ほど歩いてきた尾根の足下にあたるわけですが尾根筋からは見えず灯台下暗しのたとえそのままで、きっとこちらのアカヤシオも赤倉山付近から確認していなければ気づかず別のルートを下山してしまったかも知れません。
夢のような花の尾根ですが、密度は濃いものの袈裟丸山などとは違って面積はそれほどでもなくルートを誤ると空振りしてしまうかもしれません。
アカヤシオの林も尽きて沢音が聞こえるとかすかな踏み跡も現れてほどなく深沢の支流に降り立ちます。

古道をひたすら戻る:
初めは踏み跡もあやふやで沢に消えたり崩落で行き止まったりして沢を渡ることも何回かありますがいずれも飛び石で渡れます。
道はおおむね右岸に付けられていますから(崩落箇所では左岸に渡らなければならないこともあります。)、行く手を失ったら右岸を探してみると踏み跡を見つけることができるはずです。
小広い金山茶屋跡からは半月峠道を合わせ、かなり歩きやすくなります。しかし今は使われない道ですから古い木橋が落ちていたり崩落で道が消えたりして快適な道とはほど遠く、古道とはいえやはり山慣れたハイカーの領域です。
歩きにくい道にうんざりしたところで覚えのある鹿除けフェンスの入山点に戻り、さらに小一時間の古道歩きで駐車地に帰り着きました。
結局、この日釣り人に会ったきりまったく他のハイカーに会うこともなく私たちだけで笹の疎林やミツバツツジ、アカヤシオを独り占めの一日となりました。

こんな楽園のような別天地があまり知られることもなく残されていることに足尾の山深さを実感しました。
また、足尾全体を俯瞰できる位置にあるこの山から眺めると、一部中倉尾根の松木沢側が昔のまま荒涼とした姿ですが、松木沢も、大平山も社山も少し緑が増えているように感じます。まだまだ本来の緑豊かな足尾の姿には及びもしないでしょうが、50年ほど前足尾を歩き始めた頃の壮絶な荒れようの景観を思い出してみるとゆっくりした足取りながら復活の努力は実りつつあるようです。
【便利帳】 トイレ:間藤駅
【謝謝】 参考サイト
 オッサン氏 オッサンの山旅 http://www.sky.sannet.ne.jp/njn95685/akakurayama.htm 
【収穫】(^_^;  14片 340g(山仕事の際のゴミらしいビンや缶が多く拾えきれずギブアップ。頂稜にはもちろんゴミなどありません。)